ノンリーフ・ストレリチアの成長のプロセス

 ノンリーフ・ストレリチアが成長するにつれ、葉は退化していく。そして葉の退化が進むにつれ草姿はすっきりとした美しさを現してくる。しかし、同時にこの事が育成や繁殖をより困難なものにしている面もあります。


一般に、植物の葉は、その植物が成長するにつれ大きくなり複雑化していくものであります。

図1のイチジクの例に見られるように、葉脈が枝分かれして発達し、その植物の成長を支えます。

しかし、ストレリチアのノンリーフと言われる種類は、発達するどころか「狭小化」します。


これは、一旦大きくなった葉がどんどん小さくなる訳で珍しいプロセスであります。


−図1−


それでは、なぜそんな奇妙な進化をするのかと言えば、

 @蒸散を最低限に抑える。即ち、耐乾性の向上

 A乾燥地の一時的な低温(零下)に耐える。耐寒性の向上

  (ストレリチアの葉は0℃以下で萎えるが、茎は−3℃に短時間なら耐えることができる)

など、より砂漠的な環境でも生きられることになるからです。

 

つまり、ノンリーフ・ストレリチアの成長は「耐寒性と耐乾性」を身につけるプロセスと言えます。

しかし、「葉の縮小=成長力低下」という犠牲を払っての耐久力獲得にはむごいものを感じます。

 

 それでは、「成長力低下」しながらの「耐久力獲得」が、どのように実現するのかを見てみます。

 

図2の右側の図から分かることですが、茎が伸びながら葉が縮小しています。若い葉茎ほど背が高くなり葉が小さくなる。

つまり、成長力をなるべく落とさずに耐久性を上げているのです。

図2の左側は、ジャンセアとしては大きな葉をつけているものですが、数年経ってもなお葉の狭小化が進んでいます。

私の推測では翌年更に葉が小さくなるものと思っています。

 

−図2−

 

 

 それでは、葉の狭小化はどのように完了するのかということが興味深くなってきます。

図3は最終的な葉の形があるということを示すものですが、最終的な形は、大きく分けて2つあります。

 @葉がなくなる・無きに等しくなることで否が応でも最終形となる。

 A伸長しきった古い葉の形・大きさと新しいもののそれが同じになったとのものが最終形となる。

 

いずれにしましても、生育途中で葉が広くなったり狭くなったりすることはありません。

絶えず狭くなり続け、しかるべき時に止まるのです。

つまり、ノンリーフ・ストレリチアにとって、葉の狭小化は「成熟」そのものだと言えます。

 

 −図3−


 年齢は増加することがあっても減ることはない。若くはならない。

しかし、普通の植物では、挿し木にみられるように成熟したものでも一部を別の個体として切り離すと若返りをします。

つまり、成熟は一旦クーリングオフされて、若々しい枝や葉がでて、若年としてやり直しをします。

 

果たして、ノンリーフ・ストレリチアでは、そのようなことが起きるのかどうかを見てみたいと思います。

!! 

ストレリチアはもちろん挿し木はできませんので、それに近い状態のものをサンプルとしました。

それは、茎は成熟したものが1本だけで根がほとんどないものです。(図4の左図)

いわば成熟しきっているが、地上部も地下部も生存のためには、ゼロからの出発といったものです。

 

そこで、実際に植え付けてどうなったかという結果をまとめますと以下のようになります。(図4)

 @新芽が出てくるまで結構時間がかかった。これは植物の状態からすれば仕方のないことだと思われます。

 A出てきた新芽は「成熟」しきった最終形のもので、葉は全くないものあった。

 Bしかし、新芽の成長は意外と速いものであった。

 Cそして、元々あった成熟した茎は速やか衰退していった。新芽の栄養源になった。

 

以上のことから、ノンリーフ・ストレリチアでは、新しい個体としての出発であっても「若返り」はない事が分かる。

また、古い茎は、栄養源としてとても貴重であることも分かりました。

しかし、この「擬似挿し木個体」が開花株に成長するまでは、相当時間がかかるものと推測され実用的ではありません。

(このような細かい株分けは、皆様には決して進めません。私の場合は仕方がなかっただけです。)

 

−図4−

 

そこで、更に通常に行う開花株のジャンセアの株分けの場合を見てみましょう。

3条の株分けで、根をなるべく多くつけ茎も一切切除してありません。

 −−ジャンセアの場合、蒸散が少ないので茎は残した方が良いと考えられます−−

 

結果は、図5にまとめてありますが、全て新しい茎で元々あった3条になるまで、

 @約3年の長い時間がかかった

 A元の高さには、全て新しい茎になっただけでは到達しない。

 B2年目からは開花が見られた

ということでありました。  

これは、最も良い条件で行われた株分けと回復栽培でも時間がどうしてもかかることを示しています。

 

−図5−

 

 以上、色々と吟味してきましたが、ノンリーフ・ストレリチアの栄養系繁殖はあまり現実的ではないようです。

 実生でどんどん栽培した方が早いと判断するのは極めて合理的だと言えると思います。

 もちろん、実生でも開花株になるまでとても時間がかかります。

 

 なぜ、ノンリーフ・ストレリチアが希少なのか、ましてや高品質のものの入手が難しいのか理由は、

 「成熟=退化」という独特の不可思議な成長プロセスによるものだということになるかと考える次第です。